愚かなる独白

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ろくでなしの雑記

殺し屋小説 伊坂幸太郎の『マリアビートル』

 マリアビートル (角川文庫)

 

群像劇を書かせたら天下一品。と思うほどの完成度の高さを誇る、伊坂幸太郎。この『マリアビートル』はまさに、伊坂幸太郎の小説を読んでいるなあ、という気にさせられる。

 

東京から仙台までの新幹線の中で、息子の仇を取りにきた元殺し屋の木村、極悪非道の中学生、王子(←名前です)、二人組の殺し屋、蜜柑と檸檬、何でも屋の、天道虫こと七尾。この五人が戦いを繰り広げるわけだが、視点がコロコロ変わり、新幹線のようなスピード感溢れる展開でどんどん引き込まれる。

 

とにかくキャラが立っていて、その登場人物の多さにかかわらず、誰が誰だかわからなくなることはない。

アル中の元殺し屋の木村は、ボロボロになりながらも、粘着質的な執念深さがあって面白い。蜜柑と檸檬は多分読んだ人全員好きだろう。これは間違いなくいいキャラクターだ。僕の知り合いに檸檬に似た奴がいるので微笑ましかった。ということは、僕は蜜柑タイプかな。

 

特に僕が凄いと思ったのは、王子というキャラクターだ。彼はクラスメイトをマインドコントロールによって完全に掌握しており、相手が大人だろうがなんだろうが関係なく操作してしまう。そう聞くと現実感がないように思うが、この小説内では、人がコントロールされていく様をじっくり見せているし、その理屈を論理的に説明しているので納得できる。

そして読んだ人が感じることかもしれないが、「なぜ王子は中学生なのに全然ビビらないのか」ということだ。あれには簡単な理由がある。王子の性格を見ればわかるが、彼は間違いなくサイコパスだ。そしてサイコパスは共感能力が欠落しているが、恐怖心も欠落している。恐怖心がないのだ。だから、殺し屋を目の前にしているのに全く怯えていないのは、自分に自信があるからだというのもあるが、ただ純粋に怖くないのだ。そしてサイコパスの特徴としてよく挙げられるものの一つに「根拠のない自信」とある。つまりそういうことだ。彼がサイコパスだとすることで、彼の行動は全て説明がつく。そもそも、王子がクラスメイトをコントロールするときに用いた、通電という方法は、「北九州監禁殺人事件」の主犯の男、松永太が使っていたものだ。そして彼もまたサイコパスだと言われている。

 

これを読んで思ったが、著者は貴志祐介などと同じように、論理タイプの作家だということ。逆に感覚タイプの作家もいるが、伊坂幸太郎はなんでも論理的にしたいタイプだと思う。自分もそうだからわかる。だからこそパズルのように複雑な群像劇を書けるのだろう。

 

『マリアビートル』では、前作の『グラスホッパー』に登場するキャラの話などが出てくるので、『グラスホッパー』から読んだ方が良いかもしれないが、これはこれで完結した一つの話になっているので、十分読めるし面白い。

 

読んだときに思ったことは、アニメにしたら映えるだろうなということ。キャラや世界観が漫画っぽいので、アニメにすれば間違いなく人気が出ると思う。逆に言えばそこまでのリアリティがないので、実写には向いていないような気がスル。前作の『グラスホッパー』は映画化されたけど、正直期待はできないよね。

 

読後感はよく、全く後味の悪さを残さない。最初から最後までエンタテイメント。ストーリーは新幹線の中に限定されているし、文章も凝った表現をあまり使わないから、わかりやすい。殺し屋という重苦しそうなテーマであるのに、所々に入るユーモアによって緩和され、女子供でも読みやすい小説となっている。普段あまり小説を読まない人でも絶対楽しめるだろう。

ただ王子が結構やばいから嫌だという人もいるかもね。

 

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マリアビートル (角川文庫)

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グラスホッパー (角川文庫)

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ちなみに、乃木坂46のいくちゃんがこれ読んだらしいけど、こんなの読むんだと思うと興奮してきた。