愚かなる独白

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愚かなる独白

ろくでなしの雑記

漫画のような暴力的な小説を読みたい奴はこれを読め。平山夢明の『DINER』

ダイナー (ポプラ文庫)

 平山夢明の『DINER』を読んだ。感想は一言で、「面白かった」と言っておく。
 過剰なまでのエンタテイメントで、ページをめくる手が止まらない、そんな小説だ。筆者特有の無国籍な雰囲気と、凄惨な暴力描写、殺人鬼たちの奇想天外な心理描写が強烈に読者を刺激する。  

ほんの出来心から携帯闇サイトのバイトに手を出したオオバカナコは、凄惨な拷問に遭遇した挙句、会員制のダイナーに使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。そこはプロの殺し屋たちが束の間の憩いを求めて集う食堂だった。(文庫の紹介文から引用)

 主人公のカナコは三十万円の金欲しさに、全く初対面の怪しげなカップルが募集していた怪しげな仕事に手を出す。そのせいで彼女は殺し屋専用のダイナーに売られる。そこで登場する殺し屋やヤクザたちは、少々現実離れしたマンガチックなキャラである。だがそれぞれの殺し屋が使う武器や、得意技などが漫画っぽいからこそ面白い。「次はどんな殺し屋が出てくるのだろう」「この殺し屋の武器はなんだろう」という少年漫画的な楽しみがあった。

 だが内容は少年漫画とは程遠い。直接的に暴力を振るわれたり、暴力を振るったりということは少年漫画ほどはないが、殺し屋たちの脅し文句や、彼らの過去のエピソードなどがとにかく恐ろしい。本当に心の底から死んだほうがマシと思えるくらい恐ろしいのだ。

 主人公のカナコが敵の組織に捕まりそうになった時、自殺用に持っていた薬を落としてしまう。その場面の絶望感は強烈だった。つまり死ぬということは我々の世界では一番恐ろしいことだと思っていたが、彼ら裏の世界の人間からすると安全圏に逃げられる最後の手段ということ。そうやって感覚が麻痺していくのだ。

 僕はハンバーガーが大好物なので、表紙がハンバーガーの時点で買おうと決めていた。そして実際買ってページを開いて何ページか読んでみたら、その時点で傑作だと感じた。

 初めの、怪しい仕事に手を出してヤクザから追いかけられる件があるのだが、そこでのセリフが妙にリアルで、怖くなったと同時にワクワクした。
 カナコに運転手の仕事を頼んだ女・ディーディーが言う。

「もう刑務所でイイ! 刑務所でイイから、交番で停めてぇ! 交番で停めてヨォ!」

 このセリフなんかはその光景が目に浮かぶようだ。筆者はヤバイ状況になった人間がどういう心理状態になるのかをよく理解している。その後、道路の真ん中にベビーカーを引いた人影が見えた時、ディーディーは、

「だめよ! 轢くのよ!! スピードを落とさないで!」
と喚く。「轢いて! イイカラ、轢いて! あたしがやったことにするからぁぁぁ!」

 こうして叫ぶシーンはまさに僕が求めていたものだと思う。完璧なリアリティ。この時点で一気に引き込まれた。リアリティとはこういうことなんだよ。

 ただリアリティという意味では、舞台をダイナーに限定したせいで、殺し屋たちの過去の話を殺し屋本人がベラベラと話すことになる。さすがにそれはどうかと思った。全く関係の無いウェイトレスに自分の過去を話すかな、と思うし、話したとしてももっと短く話すと思うのだが。

 まあ敢えて擁護するなら、殺し屋の連中は完全に頭がおかしいから、一般人の僕の理屈で「これはおかしいだろ」なんて言ってもあまり意味はないということかな。 

 僕はさっきハンバーガーが大好物と書いたが、そのハンバーガーなどの料理の描写も完璧だった。グロテスクな話で吐き気を催したすぐ後、香ばしい肉の香りを感じるほどの緻密な料理の描写と、キャラクターの豪快な食べっぷりに喚起され、思わず喉が鳴る。 

 それに対して著者はあまり、情景描写が得意ではないのかと思った。どうもイメージがしにくい。拷問などの暴力描写では、どうやって思いついたのかというようなサディスティックな手口を緻密に描き、料理の描写では読んでいて腹が減るほどの徹底ぶりで思わず狂気を感じるほどだというのに、僕の読解力がないせいか、ダイナーの店内の作りが初めから最後までわからなかった。それは多分飲食店の裏に入ったことがないからかもしれない。

 だから自分の頭の中で勝手に店の作りを変えて読んでいた。が、途中で入る戦闘描写の時に辻褄が合わなくなったりして苦労した。だがそれを差し引いても余りある楽しさだった。間違いなく傑作だろう。

 平山夢明の独特の日本語の使い方や、よくわからない比喩表現も面白かった。彼はラジオとか聞いてみてもわかる通り、話している内容もよくわからない男なので。つまり天才肌なんだろう。 

 著者の短編集『独白するユニバーサル横メルカトル』よりはエンタテイメントとして振り切っているので誰でも楽しめると思う。僕のような、殺し屋好きの中二病こういう小説が大好きだろう。特にタランティーノ映画が好きな人なんかは絶対ハマる。『DINER』おすすめです。 

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

 

 

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

 

 

こういう小説を可愛い女の子に読ましてドン引きさせたい…